理論計算化学研究室

電池:電解質系分子動力学シミュレーション

ポリマー電解質 (パーフルオロスルホン酸系ポリマー)

固体高分子型燃料電池は、非常に効率的で環境に優しい代替電源である。燃料電池では、現在、プロトン伝導性が高く機械的安定性が高いため、パーフルオロスルホン酸(PFSA)アイオノマーがプロトン交換膜として使用されている。 プロトン伝導機構や燃料ガスの漏れ(膜中拡散)に対するPFSA構造の影響を分子動力学(MD)シミュレーションを用いて研究を行っている。比較的短いPFSAアイオノマーでは全原子MDが非常に有効に利用できるが、実際の燃料電池の用途では、長鎖PSFAポリマー(>120モノマー単位)を使用する。このような長鎖ポリマー系の計算を有効に行うため、Iterative Boltzmann inversion(IBI)手法とSDK(SPICA)力場を組み合わせたハイブリッドIBI/SDKモデルを使用して、PFSAの定量的粗視化(CG)モデルを開発し、長鎖ポリマーのPFSA膜に適用した。マイクロ秒のCG-MD実行後、リバースマッピング技術を使用して、全原子レベルで膜システムを再構築した。この手法は、実際の電池系で用いられる長鎖PFSA膜で使用でき、現実系の高分子電解質膜の解析で有効に用いることができる。

Polysurfonic Acid (PSFA) polymer membrane has been simulated to understand the morphology change due to the water contents. Polymers with experimental lentghs were successfully simulated using multiscale modeling. Started with the chemically accurate coarse grain (CG) MD to obtain the relaxed membrane structure, and then all-atomic (AA) configuration was obtained by a reverse-mapping approach. Additional AA-MD under strain provides mechanical properties of PFSA membrane. The multiscale simulation technique is found to work pretty well for PSFA membranes.

リチウムイオン電池用の電解質系

分子動力学シミュレーションによって、イオン液体の構造やダイナミクスの研究が盛んに行われている。リチウム塩系で電解液を得るには、有機溶媒を混合させる必要が生じる。"溶媒和"イオン液体は、リチウム塩に等モルのグライム(エチレンオキサイド鎖)が加えられることによって形成され、1:1のリチウム-グライム錯体が安定に形成される。リチウム-グライム錯体が安定であれば、リチウムとアニオン相互作用は弱められ、そのため常温で液体状態を取ることができる。 しかし、錯体の安定性は、アニオン種やさらなる溶媒の導入によって影響を受け、リチウムの運動性も変化する。電解液として、理想的なイオン液体を作成するための適切な組成を見つけるため、多くの実験やシミュレーションによる研究がなされている。我々も長時間の分子動力学シミュレーションによって、イオンの動的性質の特性評価に取り組んでいる。(e.g., see Shinoda et al. J. Chem. Phys. 2018)

A snapshot from MD simulation of 1:1 Li[TFSA]-Glyme4 system. Inset show a picture of typical Li(Glyme) complex found in the system.

さらに、スルホランは、Liイオン電池に有用な電解質を作る可能な良溶媒として注目を集めています。一般に、電解質中のイオンダイナミクスを含む物理的性質は溶媒濃度によって大きく変化するため、分子モデル(力場)は広範囲の溶媒(または塩)濃度で役立つはずです。 ある範囲の溶媒濃度で分子(イオンと中性溶媒)間の相互作用を正確に推定するには、分極可能な力場(polarizable force field)が必要です。 LiLSアニオン塩およびスルホランとその誘導体のOPLS-AA力場の拡張として、分極可能な力場を開発しました。新しい力場を使用したMDシミュレーションでは、実験的な拡散係数やコンダクタンスと比較して、Liイオンのダイナミクスがよく再現される分子のトラジェクトリーが生成されます。この力場をスルホランのような溶媒を含む電解質の一連のMDシミュレーションに適用しました。 Liイオンの動的相関の分析により、Liイオンのダイナミクスの制御における溶媒の機能または役割を明らかにします。

A snapshot from a MD simulation of Li-TFSI:SLF=1:2 system. Li-ions are described by purple spheres.