理論・計算化学研究室

研究Research

”機能する”分子集合系を計算機シミュレーションで観る.

分子集合系の機能・物性は,構成分子組成はもちろん,様々な条件(熱力学,境界)によって大きく影響を受けます. ソフトマテリアルや生体系に代表される比較的弱い相互作用で(半)秩序構造を作る分子集合系は,弱い外部摂動に対しても大きく構造やその他の物性を変化させることがあり,そのような分子プロセスを観測・理解し,さらに制御が可能となれば,ナノテク・材料・医薬など様々な分野においてその波及効果は計りしれません. しかし,柔らかい分子集合系を特徴付ける長さスケールは,実験的なアプローチによる解像度の限界によって,容易に観ることができない領域(10-1000nm)にあり,理論的・計算科学的な測定・解析手法が望まれます. 一方,計算化学分野では分子またはそのクラスターを対象とした研究が多く,凝縮系や複雑液体といった分子集合系のメソ構造探索は大きな壁となっていました. 我々は,分子モデリングの手法に基づき分子集合系の大規模計算を実施し,構造形成や変性などの機能する分子集合系を観ることのできるシミュレーション技術を開発し,材料設計に役立てることを目指しています. 特に,分子論に立脚したメソスケール分子集合系の構造・機能の解析のため,階層的な分子モデリング技術を構築し,実験と相補的なメソ領域の計測手段(~100nm)として技術を確立することを目標としています.

我々の分子シミュレーション(主に分子動力学シミュレーション)の対象は,生体膜・脂質膜系生体高分子による自己組織化系ウイルス粒子(カプシド、エンベロープ)DDSなどで用いられる脂質ナノ粒子複雑液体高分子(電解質)系コロイド系イオン液体リチウムイオン電池電解液包摂化合物系などを扱います. また最近,無機や金属粒子と有機分子とのハイブリッド材料も興味深い対象として,研究を始めています. 分子シミュレーションでは分子情報(分子間相互作用など)に基づいて分子集合系の構造・機能を予測し,それを元に分子設計を行います.分子シミュレーションは,コンピュータの高速化やシミュレーションソフトウェアの普及により材料設計の現場においても広く使われるようになってきましたが,その適用範囲の拡大と予測性の向上には改良の余地を残しています. さらなるシミュレーション技術の高度化や分子モデルの精密化と高度化が必要であり,同時に上述のように扱う対象(時間空間スケール)を広げ,複雑な現象を理解するための階層的分子モデリング(粗視化)技術の開発は不可欠なものと考えています.


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